初参観日(子供の風景‐2)

椅子にすわった先生の周りに子供たちが胡坐をかいて先生の顔を見上げている。膝を抱えて座る日本式でなく、皆あぐらだ。

つと、一斉に立ち上って自分の席に帰り、鉛筆を1本取り出して又わっと戻る。1拍遅れて我が息子が立ち上げり、みんなの後を追う、が何をするのかわからない様子で回りをきょろきょろ見てから同じように鉛筆を取り出してみんなの車座に加わろうとする。輪に入りきれなくて一つだけお尻がぽこんとはみ出している。ここまで見てもう涙が止まらない。ああ、親の都合でなんとむごいことを子供たちにおしつけているのだろうか・・・

夏休みに渡米し、具合よく9月の新学期からアメリカの1年生に入れた長男の最初の参観日のことである。人懐っこい次男は物怖じすることもなく新環境にすんなり溶け込み、「May I go to bathroom?」を連発しては教室を抜け出しているらしい。1日目泣いて先生に抱かれて教室入りした少し人見知り気味の長男を心配していたが、放課後近所の日本人仲間と活発に遊んでいる姿を見ていたので、気楽な気持ちで参観に来たのだった。

しかし、しかし、目の前の風景に出会って、こんなこととは露ほども思わなかった。親の方は英会話は全く駄目だが、書いたものは読めるし、周りに日本の方もたくさんおられる地区なので無理に現地の方と交わる機会を作る必要がなく、殆ど生活には困らない。子供たちが, 聞いたことの無い言葉の中で毎日を気を張って過ごしていることには全く考えが及ばなかった。息子二人は幼児部と1年生で、日本語だってまだ十分でない。さらに家ではその不十分な日本語を話せと言われて暮らしているのだから、あの子たちの頭の中は今どうなっている?起きていることと聞こえてくる言葉に注意を払い、勘を働かせてあれこれ考えているのか?泣きたくもなるかもしれない。親としてどうしてやればよいのか?

主人の仕事で渡米が決まった時、短期の滞米で子供の教育・特に2か国語の習得に苦労したという話を色々聞いていたので、子供たちの将来を考えて、あぶはち取らずにならないよう帰国を考えず、腰を据えてアメリカで教育を受けさせようと決心して日本を離れた。地方には直接影響はなかったが日本の「お受験」話が歪んでいるとの印象が強い頃だったので迷いは無かった・・と思う。

涙を誰にも見とがめられないようにこっそり収めて、さて私はどうすれば良いのか‥?主人は新規事業を軌道に乗せることに没頭し、家を顧みる余裕は無さそうだ。とりあえず毎日子供たち3人の顔色を確かめながら様子を見ていたある日、夕方家に帰る時間に戻ってこないので公園に探しに出たが、いつもの日本人グループの中に姿が見えない。さて一人皆と離れてどこにいるのかなと尚も探して歩いたら、木陰の地べたに足を開いて座り込み、アメリカ人の男の子と向かい合っているのが息子らしい。両足の間にその頃はやりのベースボールカードを差し出してはじゃんけんとはちょっと違うこちらの指を1本か2本か出して勝負するやり方で相手とやり取りしている姿が見えた。要らないカードをトレードに出すとか言ってたあれか?それにしてもあれで通じているのかな、と思うと同時に「大丈夫、この子たちはたくましくやっていくだろう」と心から安堵した瞬間だった。

長男6歳の秋のこと。