おやじの一言(子供の風景‐1)  

                おやじの一言       

 「散髪はおやじの仕事だ」と何かに書いてあった。

「そーか、俺の出番だ!」 櫛とはさみでやってみた。

上手くいかない。

「そうだ、坊主がいい、バリカンだ!」

 刃物屋の主人が同級生で、これが又悪い。

「ヤマちゃんの息子?じゃあ、5厘で良いな! おーい、5厘のバリカン持って来い!」

かくて、くりくり坊主が2つ出来上がった。仲間の家族旅行で皆が代わり番こになでに来た。たちまち一番の人気者だ。

 

1回目はすんなりいった。

上が幼稚園に入った春、抵抗にあった。

「坊主はいやだ!」

「ナンマイダーっ、ポクポク・・(叩く真似)」と片手拝みにはやされるのだそうだ。(幼稚園でそんなこと知ってるのかいな!ここは聖母幼稚園だぞ。校庭のマリア様がみてござる!)

「パパだって小さい時坊主だったんだぞ!おんなじだ!」(昭和20年代の話だけど)

この坊主、くりくり頭に似合わずのかわ気が小さい。何があるかわからない日は(夏休み明けのくろんぼ大会とか)朝おなかが痛くなる。

この世知辛い世の中、図太く生きてくれよ、とおやじはつぶやくのみ。

 

思いがけない所から古い小冊子が出てきた。題して「おやじの一言集」。種を明かせば、これは幼稚園の父親参観日に書かされた一言で、急な出張で出られなかったおやじの代りに書いたもので、話してないから彼は多分知らないままだ。

この1年後、アメリカはニューヨークへ渡った。アメリカで坊主頭でもないわね、と伸ばしかけの髪をなでつけて、坊主どもは渡米した。

15年後、長女の結婚式に、花婿の友人たちとアテンド役で並んだ二人のタキシード姿に涙が出るほど嬉しかった‼

 子どもは強い!ゼロからのABCと格闘し、苦労もあったろうが、40年後の今日、肝っ玉が小さいと心配したくりくり坊主はWall 街、年子の二つ目は車のソフトを追ってと世界中を、結構したたかに飛び回っている。