学区選びと教育   アメリカの教育雑感(1)

アメリカの教育制度は日本のように全国統一ではなく、州ごと、もっと現実的に学区ごとで非常に柔軟である。学区の教育方針になじんだ住民が同じ地区に集まり、学区の気質や雰囲気が作られてくるようである。名のある進学校とフレンドリーな職業科目もある高校では同じ公立とはいえ、父兄の考え方からカリキュラムまですべてが違ってくる。不動産にかかってくる学校税にも差があるので住民のレベルにも微妙な差が見えてくる。

従って、子育て世代の住宅選択には学区選びが最も重要な要素になる。

殆どはキンダーから12年生までの13年(K-12)が義務教育で、公立高校(4年間)1校を中心に学区の大きさでいくつかの中、小,幼がある。学制は、Kを除いて6・2・4だったり、5・3・4、中には4・2・2・4など。学校の数も学区内の住民の人数などで決められているようだ。学区によっては住民レベルが地区によって偏っていて学区内の公立校のレベルが一律でない場合に、レベルを同じにするために生徒を混ぜてバスで遠い学校へ通わせる、いわゆる「パッシング制度」がある学区などもあってこれは評判が悪かった。

学区の高校はそれぞれ歴史もあり、学風が住民にしっかり認識されていて、学齢の子供がいなくても住宅にかかってくる学校税が高くなった・・とか文句は言いながらも住民は誇りをもって学区を支えているようだ。卒業生の進学先からSATなどの点数や分布、全国レベルのどのグループに属しているか等、果ては教授陣のマスターやドクターデイグリーの%までが公表され、学区ごとの違いが日の目を見るのに驚いた。日本では考えられない(差別)容認である。

小学校からEnrichmentと言って優秀な子供のために特別なクラスを作って高度な授業を行う場合も多々見られる。これは、平等とは「皆が同じレベルで学ぶのではなく、その子の能力に合った教育を受けられること」という考えに基づくもののようである。例えば、娘がピアノを習っていた地元の音楽学校でバイオリンの伴奏を引き受けていた1年生の男の子は天才で、高校でもトップのチームで数学の対校戦に出ていた娘が「あの子、私と同じことやってる」と仰天し、同年齢の友達と接する為だけに週1で小学校へ行く以外は全て教育委員会が個人教授をつけていたそうである。レッスンの合間に母親の膝にもたれて甘える子供からはそんなことは想像も出来なかったが、聞いたところではそんなに珍しいことでは無いようだった。

実際娘も形は違うが似たような経験をした。小さい時から「算数のK子ちゃん」と言われてきて、当地に来ても英語は中々追い付かなかったが、数学だけは勘も良く、7年生の州の一斉テストで運よく州チャンピオンになった。開校以来のことだというので数学の先生の目に留まり、7年をスキップして同じ先生の8年のクラスに進むことになった。8年のクラスに追いつくまで、クラスのトップの生徒が教室の隅で教師役を務めてくれて3か月でクラスに合流したと後で聞いた。そのために第2外語が取れなくなって、代わりに9年数学をインデペンデントという放課後先生との対面授業を週2回行い単位をもらった。次いで8年生で数学10を、9年生で11を取り、10年生で12が終わってしまい次の年には好きで良い成績が取れる数学がもう無い状態になった。そこで次の年は先生の勧めで近くのコミュニテイ・カレジで大学のカリキュラスlllというクラスを取ることになり、親は費用を負担し、本人がまだ免許を持っていなかったので週3日運転手を務めて単位を取ることにした。大学ではその科目は免除されるそうである。

年度末の恒例のガイダンスとの面接で進学もにらんで次年度の科目を決める段になって、変則で数学を終わってしまった為に、人数が少ない少数精鋭校なるが故に科目編成がやりくりできなくなり、いっその事11年を飛ばして12年に進み、1年早く大学を受けたらどうか、と話が跳んでしまった。元々早生まれで日本の学年とこちらの年齢枠が違うために同級生より1年下の学年にいたのが不満であったため娘もその気になり、急遽あと1年で卒業に必要な必修科目をこなす段取りに振り回され、夏休みには6週間のクラスを3つも取って、理工科へ進むために無くても良い学科を全てカットして滑り込みでシニア学年(12年生)に進級するという思いがけない事態を経験することになった。入試は1年上の新しい仲間と一緒に普通に行われ特典は無い、というので、親としては、無理をしたために希望の大学に入れなかったら後悔しないか、又早熟なアメリカ人の中で早生まれの上に1年早く入ってまともに友人たちと付き合っていけるのか、の2点が心配だった。が、一方でやれるだけやってみるのもアメリカならではのこと、とも思って本人に任せることにした。

結果、とにかく世界一の工科大学に入ることが出来、宇宙を専攻して奨学金を貰って修士学位も取れ、NASAの技術者として50代になった今もオリオンだ、ISSだと親を煙に巻いている。日本でも高2からの推薦入学制度の話を聞くが、大学側が引っ張るのでなく、高校側の責任で12年生をしっかり終わらせて普通に受験するというのが新鮮に映った。12年生には独特の行事もたくさんあり、大変楽しく思い出深い学年なので、卒業後も後々までそこに居場所があって仲間に入れてもらえるのは大事なことである。日本の飛び級入学者は卒業式や卒業写真・同窓会なんかはどうなるのかなという疑問にはまだ答えを貰うチャンスが無い。